三日月の下、君に恋した
「はい。面白いです。製品番号と注文番号の校正してると気が遠くなりますけど」

「あー、なるほど」

 想像したのか、楽しそうに笑う。ああもう。だからその笑顔はやばいってば。

「営業企画の人たちとは、あんまり接点がないんですよね」


 しゃべりすぎてる気がする。いつもは初対面の相手とは会話が途切れがちなのに。でもいったん黙りこんだら、二度としゃべれなくなりそうだった。


 あまり待たされることなく料理が運ばれてきて、菜生はほっとした。極限までお腹が空いていたので、料理はどれもおいしくてとろけそうだった。

 食事の間も会話はゆっくり続いた。お酒も頼んだけれど、二人とも少ししか飲まなかった。緊張しているのに、楽しんでる自分が不思議だ。

 しかも相手は噂の人物。しかも二人きり。ありえない。


「早瀬さんは、ずっと営業の人なんですか?」

 言ってから、しまったと思った。過去のことを聞くのはまずかったかもしれない、と気づいたからだ。でも彼は不思議そうな顔をしただけだった。
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