フラワーデイズ

記憶の隅に

  ◆◆◆


 翌日、私はその変わった客のことを夜になるまですっかり忘れていた。

 それというのもあの後、閉店直前にクレーム電話があってその応対に追われたからだ。
 ネットからの注文客が見本写真と違うという話だった。花は植物だから同じ種類でも一つ一つ色や形が違うのは当たり前で、見本通りなんて有り得ないのにその客は納得しなかった。

 結局、系列の店に電話してよく似た鉢植えがあるか聞き、客の了解を得てからその店に取りに行き、そのあとで客の家まで交換に行った。
 母親の誕生日祝いらしくて、クレームをまくし立てる息子の後ろで恐縮してたけど、なんかこっちの方が気の毒になってしまった。


 そんなわけで帰宅したのが12時近くて私は倒れるように眠って夢を見る暇もなかった。

 そして翌日は朝から忙しく前日のことなんて考える時間もないまま帰宅時間になり、そこでようやく思い出したのだ。

 あの変わった客のことを。



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