いかれ帽子屋はせせら笑い、ヤンデレ双子はただ愛した


あるとすれば精神。
単なる幻視、精神疾患の症状だが、いくら幻にしても自分の右手――いいや、それだけでなく見ているもの全てが崩壊していたならば発狂してもいいだろう。


遠くが近くに、近くが遠くに、遠近法すらも破壊された世界(視界)で何度転び、物にぶつかったことか。


「おっと」


「そろそろ慣れろ」


けつまずいた右桜(うおう)の腕を兄である左桜(さおう)が掴み、通算二十回目の転びを阻止した。


「慣れろって言われてもねぇ……」


難問を解くように難しいと右桜は肩からずり落ちたショルダーバッグをかけ直す。


「兄さんが異常だと思うな。普通、そんなに早く適応しないのに」


同じようにショルダーバッグを担ぐ兄に拗ねた口振りで言えば、困った左桜の顔を見れた。


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