琥珀色の誘惑 ―王国編―
琥珀色の瞳が、今にも襲い掛かりそうに光った。

舞は背筋がゾクッとする。

まるで……狼に睨まれた野兎の気分だ。ひょっとしたら、強行突破してくるかも知れない。元々、体さえ奪えば心は後から付いて来る、と信じて疑わない男だった。

そして日本の時と違って、今度は拒めない。

舞はもう、どうしようもない程、ミシュアル王子のことを愛していた。


ふたりの距離が微妙に縮まったその時――。



「恐れながら。アーイシャ様は酷くお疲れのご様子。明日には砂漠にご出立のご予定です。本日は、ごゆっくりお休みになられたほうがよろしいかと」

口を挟んだのはシャムスだ。

舞は言葉も出ないほど、ミシュアル王子との対峙に緊張している。


ミシュアル王子は舞から視線を外すと、大きく溜息を吐いた。


「良かろう。だが、式は予定通り行う。舞、私から逃げられると思うな!」


舞の視界は涙でぼやけ、ミシュアル王子の顔を見ることはできなかった。



昨日までと同じ愛の言葉をミシュアル王子は口にした――だが、舞の心に伝わらなければ、そこに愛はない。


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