琥珀色の誘惑 ―王国編―
驚く舞に、ターヒルは極めて冷静に彼女の間違いを指摘し始める。

だが、震える女性に視線を向けると、アラビア語で手早く指示し……彼女はそのままテントを飛び出したのだった。


「さあ、舞様。私たちも早くここを出ましょう。どちらにしても、ふたりきりというのは後々問題になりかねませんので」

「あの男の人たち、殺したの? ヤイーシュの仲間なんでしょう? さっきの女性はとっても良くしてくれたの、まだお礼も……」

「舞様! ふたりとも青痣くらいは出来るかも知れませんが、すぐに意識も戻るでしょう。先ほどの女性には、王太子殿下のご命令で族長の為だ、と言って下がらせました」


ターヒルは「失礼します」と声を掛けてから舞の二の腕を掴んだ。そして、テントの陰に隠れつつ、広場に集まる人々の背後を通り抜けようとする。


「ちょっと待ってよ! アルの声が聞こえたわ。決闘って……ふたりを止めなきゃ」

「それは出来ません」


 間髪入れず返って来たターヒルの答えに、舞は目を丸くする。

 ミシュアル王子に万一のことがあったらどうする気だろう。それに、ターヒルはヤイーシュとも仲が良さそうだった。


「決闘は……お芝居、とか?」

「違います」

「じゃあ、早く止めないと駄目じゃない」


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