琥珀色の誘惑 ―王国編―
「それを説明する時間はない。お前は……これを被るのだ。何が起こっても、私が何をしても、声を出してはならん。舞――今度ばかりは、質問はなし、だ。私に従え」


ミシュアル王子の真剣な眼差しに、舞は無言で頷く。

そのまま彼女は、アル=エドハン一族の女性が身に付ける砂色のアバヤで全身を覆われた。まるで毛布を頭から被ったような姿だ。


直後、広場から大声が上がった!



ミシュアル王子は弾かれたようにテントの陰から飛び出す。

舞も慌てて追いかけた。


祭壇付近で、白いトーブを着た男性がアラビア語で何かを叫んでいる。男性はひとしきり喚くと、小さな松明が灯った通路を大股で歩き、こちらに向かってきた。


『ヤー・アブー(お父様)!』


男性の背中に、赤い花嫁衣裳を身に纏ったライラが泣くように叫ぶ。

それは舞にもかろうじてわかるアラビア語。

その男性が悪名高きマッダーフ・ビン・バタル・アール・ハルビー。この国の軍務大臣であり、ライラの父親。軍部を中心に権力を網目のように張り巡らせ、国王や王太子といえども蔑ろには出来ない人物だった。


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