妖(あやかし)狩り・弐~右丸VSそはや丸~
「あああああっ」

 女官が目を見開いたまま仰け反り、喉を掻きむしる。

「烏丸!」

 右丸の口をこじ開けて、そはや丸は烏丸を呼ぶ。
 その声に呼応するように、女官の口から妖気が流れ出た。

 そはや丸は、すかさず手を伸ばして女官を引き寄せ、右丸の上に引き倒した。

『きゃあぁ~~っ! 引っ張られるぅ~~』

 女官が右丸の上に倒れると同時に、烏丸の声が響き、右丸が一層苦しそうに身悶えた。
 そはや丸の目が鋭くなる。

 やがて右丸が大きく口を開いた。
 女官も苦しそうに顔を歪める。
 さながら地獄絵図だ。

 右丸の口から、黒い妖気が流れ出した途端、そはや丸の瞳が人ならざる輝きを放ち、その黒い妖気の塊を吹き飛ばした。

「きゃんっ」

 ばこん、と部屋の隅に叩き付けられたのは、一羽の烏。
 そはや丸は懐に手を突っ込み、呉羽から渡された、そはや丸の妖気を緩和する術を施した布を広げた。
 そして、素早くのびている烏を包み、ちら、と後の二人を振り返る。

 右丸も女官も、気を失っている。
 結構高等な妖怪を、ほとんど無理矢理身の内から引き出されたのだ。
 相当な妖力を吹き込まれた女官も、負担は大きいだろう。

 小さく舌打ちし、そはや丸は、これまた呉羽から預かった護符のような紙切れを、右丸の懐にねじ込んだ。

 それだけで、後は庭に飛び降り、一気に築地塀を跳び越え、夜の闇の中を、風のように北に走り去った。
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