電網自衛隊
 本来軍隊は、国際法で禁止されている行為以外なら何でもやっていい存在だ。それが任務、特に国防のためであるなら。一方、警察組織は何をやっていいかの方が法律で決められていて、そこに書いてない事はやってはいけない。
 たとえば武装したテロリストがどこかの家に集合しているという疑いがあるとしよう。警察は裁判所からの家宅捜索令状などが無い限り、その家に突入する事は許されない。軍隊はそういう疑いがあるというだけで、ドアを爆破してでも突入する事を許される。しかし、日本の自衛隊は警察と同じ手続きを取らないとそれが出来ない。
 この欠陥は1995年の阪神淡路大震災の時に最悪の形で露呈した。目の前で地震の大被害が生じていても、自衛隊は各部隊の判断で救出に出動する事が出来ず、総理大臣からの出動命令を指をくわえて待っていなければならなかった。自然災害に対しては命令を迅速化する改良はなされたが、それ以外の自衛隊の活動に対しては未だに「警察法の体系」の縛りは消えていないのだ。
 やがて夕方になり、昇二と同じ若い隊員が側にやって来た。彼は敬礼しながら昇二に言った。
「新田3尉。交代の時間です。自分は高山雅博、3等陸佐であります」
 山口が横から言った。
「そいつも西部方面教育隊から直行の、おまえと同じまっさらの新人だ。まあ、仲良くやれ」
 昇二は椅子から立ち上がり、敬礼を返しながら高山に言った。
「ではお願いします。そのうち一緒に飯でも食おう」
 高山はにこりと笑って昇二の席に座りながら答えた。
「ああ、いいね。これからよろしく」
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