電網自衛隊
第5章 シャットダウン
 それが一年半前に起きた事だった。わずか5日間の間に首都圏は大混乱で壊滅的な被害を受けた。列車の衝突、脱線事故46件。交通事故6300件。幹線道路のいくつかは一時火の海になった。病院の電源、システムがダウンし生命維持装置が長時間停止。その他デマによって引き起こされたパニックとそれに伴う大規模死傷事故が98カ所で発生。
 その結果、死者1万4372人。負傷者推定23万人、うち4万人が重傷。事件収束から1年後も行方不明として処理された者、271人。
 サイバー攻撃の犯人は結局特定出来なかった。メインの発信源であった中国の工場には日本と中国の警察当局が捜査に入ったが、工場内の制御用コンピューターシステムに差しこまれたUSBの中のマルウェアを確認するところまでは出来た。しかし、従業員の証言から特定した容疑者は数日後、ゴミ処理場で死体で発見された。頭部に3発も銃弾が撃ち込まれており、殺害された事は明白だったが、その犯人は杳として分からずじまいだった。
 結局中国もまた踏み台として利用された可能性が高かった。あのサイバー攻撃を行ったのが、日本国内の誰かだったのか、外国の誰かだったのか、そもそも軍隊だったのか、国際テロリスト集団だったのか、あるいは遊び半分のクラッカーだったのか、それすら最後まで推測の域を出なかった。
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