無口な彼が残業する理由 新装版



春眠暁を覚えず。

とはよく言ったもので、ふと気付くと出発予定時刻の10分前だった。

毎年新年度を迎えるとちゃんと家で朝ごはんを食べて優雅な気持ちで出社しようと決意するのに、

結局三日坊主で寝坊してしまう。

まだ桜も咲き誇っているのに、

疲れの取れにくくなった体は暁を覚えぬまま。

大急ぎでメイクをして出掛けるのも、

日常になってしまった。

昨日は丸山くんに言われていつもより早く帰ったのに……。

「おはようございまーす」

出社すると、丸山くんは既にコーヒー片手に資料を眺めていた。

まず第一に彼を目で確認してしまったことから判断するに、

どうやら私の気持ちは落ち着かなかったようだ。

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