甘恋集め

秘書課に配属されて以来、どうも調子がいい。相性がいいんだ。

配属前は、秘書課というイメージにとらわれ過ぎていたのか、女性の意地の悪さが凝縮された檻を想像して憂鬱だった。

けれど、入社後しばらくの間研修を受けた後に連れて来られた秘書課には、予想を裏切る大声が飛び交っていた。

翌日海外の会社の視察があり、社長をはじめ役員皆大忙しで準備にあたっていた。
スーツの腕をまくって陣頭指揮をとっているのは、よく知っている高橋のおじさん。

いや、社長で。

『その模型は真ん中に置け、で、椅子の数は足りてるのか?通訳との打ち合わせは終わってるのか?』

周りに指示する様子は想像していた社長ではなかった。

椅子に座って余裕で構えてる人を想像していたのに。

おじさん、もっとどっしり構えなきゃ。

言葉もなく、秘書課の中で茫然と立ち尽くしていたのは私だけではなくて、私と一緒に秘書課に配属された同期、三村結花も同じように驚いていた。

『社長って、あんなに汗をかいて仕事するんだね』

ぽつりと呟いた彼女の言葉がツボにはまって、笑いをこらえるのに苦労した。

これが、私と結花の付き合いの始まりだった。

< 86 / 207 >

この作品をシェア

pagetop