摩天楼Devil
でも、彼は本当に残酷なことをした。


お姫様だっこしたんだ。


「やだ……」


「ん? おんぶ?」


「やだ……」


「ワガママ言うな。行こう。迎えが来る。たぶん、もう会うよ。君が心配でずっと探してて、レイさんからここを突き止めて、すでに向かってたらしいから」


――木島さんが?


彼の首を腕をまわして、顔を覗き込む。


そんなつもりないけど、まるで“せがむ”ような感じになった。


カア、と赤くなった。


「妃奈。また、チュウか?」


「ち、違うもん!」


からかうような表情だったくせに、篤志さんはすぐに真顔になった。


「そろそろ、下ろすよ。彼が見たら大変だ。もちろん、チュウなんて論外」


――木島さん、じゃない。


「シュンちゃん呼んだの? なんで!?」


それは一番、残酷ではないか。


「妃奈。分かってるって言ってたじゃないか」


篤志さんは、淡々と私を下ろした。


「……何を……?」


「俺の気持ち。もういい加減、迷惑なんだ」


――分かってる、分かってるよ……


だから、シュンちゃんとの婚約も決めたの……


いけないと分かってるけど、レイさんのネイルサロンを教えてもらう条件だったし……


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