シーサイドブルー
1.海風と呼ばれて
* * *


夜8時の海はひたすらに黒い。
きっと私なんて存在はあっさり飲み込まれてしまうだろう。
…でも、それでいい。私はそれを望んでいる。


塾からの帰り道。
今日は家に帰らない。


『さよなら』
『ありがとう』
『ごめんね』


最期に残すべき言葉が見つからない。
…残す必要もないってことか、と納得する。


そう。
私はこの世界にもう何も望んではいないし、私という存在がいたことを残したいとも思わない。


願わくば、私という存在がいたことも全て飲み込んでもらいたい。
このどす黒い海に。


とは言っても、海にざぶざぶと入っていったところで消えることはできるのだろうか。
生憎波はとても穏やかで、飲み込むというよりは寄せては消えていく、そのくらいに弱い気がする。
それに、こんな夏に入っていったところで、ただの海水浴にしか見えないだろう。
確かに時間は少しおかしいけれど。


それでも、行くしかない。
終わらせると決めた。


こんなにも無力でちっぽけな私を、今日終わりにする。
明日なんていらない。

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