シーサイドブルー
「止める権利も義務もあなたにはないし、それに力ずくで止めることだって出来ない。」

「…まさにその通り。
でも、止めたいって思うのは自由でしょう?」


…それについては否定できない。


「そうね。それは自由。
今日は帰らない。明日も…。あの家にも学校にも、私は…。」

「…いいんじゃない?帰りたくなきゃ帰らなくて。」

「え…?」


…言っていることが矛盾している。
私が消えるのを止めたい。でも帰れとは言わない。


「帰りたくない場所に行く必要なんてないよ。
海風が行きたい場所で生きればいい。」


さっきまで浮かべていた笑顔は、いつの間にかどこかに行ってしまっていた。
ただ真っすぐに、真剣な表情のまま私にそう告げる。


「…行きたい場所なんてない。
でも…いたくない、場所はある。」


なんて勝手な言い分だろう。
そんなの分かっている。
したいことも行きたい場所も選べない、なんて。


「そっか。じゃあとりあえずここにいればいいんじゃない?
俺んちまだ空き家だと思うよ。」

「え…なにそれ…。」

「あ、別に俺の死体があるとかじゃないよ?ボロいアパートだったから次の入居者決まってないだけ。」

「…不法侵入じゃない。」

「バレなきゃいーって。大家さんなんて来ないからさ。」


…そんな適当な。
そう思うものの、家に帰る気にはなれなくて私はそのまま立ちつくす。

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