100日愛 [短]



こんなにも空しい話をしているのに、頭の中は相応しくない薫の笑顔を映していた。


告別式になんか、まともに参加しなかった。
ただ遺影で微笑む薫を魂が抜けたように見つめていた気がする。

すぐ側で泣き崩れる薫の友人にすら声もかけずに、夾は…この時から現実逃避をしていた。



「…今度、お線香上げに行ってもいい?」

「ああ。……いつかな…」



薫の仏壇を思い出して、咄嗟に『いつか』と言った。
今は駄目だ。何たって薫が家にいる。
お線香なんてあげたら、彼女を傷つけるにちがいない。

流すように上手く返答をし、試験官を揺らした。

今開発中の薬は、小児科喘息に子供のためのもの。

飲めば瞬発的に発作が止まる薬。

今までのものは、速効性があってもその粉末を吸わなければいけなかったり、すぐに飲めるものでも速効性に欠けていたりする。

まだまだ実用的になるにはほど遠いが、夾はこれを完成させることを今一番の目標としている。


「それでさ、一つ話して置かなきゃいけないことがあったの忘れてた」

「え…何?」

「中学生の時からずっと言われ続けてたの。最近はあまり会ってなかったんだけど…」


曇った気持ちをそのまま吐き出すように、彼女も自分のデスクの試験官を持ち上げる。

同僚の名前は、新崎〔しんざき〕。
家に帰ったら薫に確認しようと心に決め、そのまま次の通り言葉を待った。



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