Quiet man
マンションに戻って来た

あたしは沢村の部屋の

ベルを押していた。


・・・出るわけない。

音が全く鳴っていないのだ。


水道局のタグも見つけた。

計画的にも思える。

彼はとうに

ココを引き払ってしまってた。


仮名だし、目隠し写真ではある

が、見る人がみれば解る。

売名行為のつもりだろうか。



「ナギちゃん」



ふと顔を上げると

そこには沢村が立っていた。


手にしていた雑誌に視線を

落とし、肩を揺らす溜息をつく。



「ごめんね、俺・・こんな

つもりじゃなかったんだ・・。」


「・・いくら貰ったん?」


「たいした額じゃないよ。俺は」

「NO1ホストが聞いて呆れる!」



バシ・・!



あたしは雑誌を彼に投付け、

自分のドアまで辿り付く。

だが、追い掛けてきているのが

解ると怖くなり、

ハルミさんちのベルを鳴らした。



「ナギちゃん、待って・・!」




ガチャ。



「おう、どしたの?」

「・・・・・。」



交互にあたし達を見るハルミ。

目で"助けて"と訴えるあたし。


只ならぬ雰囲気を読み取った

彼女が急いで中に入れてくれて

ほっと胸を撫で下ろすのだ。



「・・追っ払ったよ。どうした

のよ、何かされちゃったの?」


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