キオクノカケラ

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「ここだよ」


赤い屋根に青白い壁。

窓は一つもなくて、

普通の大型車が、軽く50台は入る程度の広さの倉庫。


「ここに、詩織が……」


一般人が持つには少し大きすぎるそれを見ながら、教えると

柏木は、今にも消え入りそうな声で小さく呟いた。

その時、柏木よりも前に立っていたオレは

彼の顔に浮かぶ切な気な表情に、気付くことができなかった。


「さぁ、案内したんだから、章を離してもらおうか」


「それはできません。
倉庫を開けるまで、です」


「……開けたらすぐ離してもらうからな」


軽く舌打ちをして、一番外の扉を開ける。

そして中にある扉の横のパネルにパスワードを入力、指紋認証。


《認識完了》

《扉ヲ開キマス》


パスワードの入力画面にその文字が出たかと思うと、

扉の奥でガチャリと重い音が響く。

鍵の開く音だ。


その扉を引いて、ちゃんと開いたのを柏木に確認させると、今度こそ真剣に言う。


「さぁ、開けたぜ。
章を離しな」


そう言った時のオレは、自分でも驚くくらい低い声で、冷たい瞳をしていたと思う。

現に柏木は、心なしか一瞬怯んだように見えた。


「……分かってますよ」


そう言ってから、章に銃を突きつけている男に指示を出すと、

章は男と共に倉庫の外に出された。

残ったのはオレと柏木の二人だけ。

だいぶ好都合だ。

やるなら…今しかない。

ズボンのポケットの中でぐっと拳を握って、

章が出て行ってもなお外の扉を見つめ続ける彼に声をかける。


「なぁ、いいのかい?中に入らなくて。
ま、オレとしては別にいいんだけどね」


「……言われなくても、行きますよ」


「あ、そ」


どこか章に似た笑みを浮かべる彼に、眉を潜めながらも、

オレは重い扉をゆっくりと引いた。





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