キオクノカケラ

「その、大事な人は…誰に狙われているの…?」


「………それを言って、詩織が何とかしてくれるの?」


「え……」


「それを言ったところで、お前に何とかできる力があるのかよ!?」


「っ…!」


彼の言葉はあまりにも確信をついていて、

私は何も言い返すことができなかった。



私には何もない。

権力も、お金も、人脈も。

今だって、自分ではどうすることもできないから、時間稼ぎをしてるだけにすぎない。

私は、なんて無力なんだろう……。


「…っ、そんなこと…ない……」


ふいに後ろから聞こえた声に驚いて振り向くと、

荒々しく呼吸をした結城くんが、立ってこっちを見て優しく微笑んでいた。


「結城くん!!動いちゃ駄目だよ!」


「大丈夫、だって…っ。
それより、今、自分のことっ、無力だとか、思っただろ…?」


「!どうして…」


まるで心が見透かされてるみたいで、大きく目を見開くと、

彼は呆れ半分に微笑みながら私の頬に手を伸ばした。


「分かるって…。
大丈夫だよ…お前には、お前にしかできないことが、あるから……」


「私にしか、できないこと……?」


彼はそっと頷く。

そして私の頬を優しく撫でた。


「あぁ…オレにはできないことだよ」


私にできて、結城くんにできないもの?



………わからない。


首を傾げると、結城くんは微笑みながら自分の腰へと手を伸ばす。

そして……―――。




ガァンッ




結城くんが健斗を見たのと、左手を彼に向けたのは、ほぼ同時だった。

さらにそれが拳銃だったこと。

結城くんが彼を撃ったことに気が付いたのは、

カランカランと彼の銃が床に落ちた音を聞いてからだった。



< 125 / 153 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop