キオクノカケラ


しばらくして、ゆっくりと離れていく顔を。

私はぼんやりと見ていることしかできなかった。


「オレは、全部知ってる」


唐突に呟かれる言葉。


「え……」


まさか彼が知っているはずない。


健斗が言うはずないし、もちろん私も話していない。


かと言って、あの人がそんな簡単にしくじるような真似をするだろうか?


私の頭の中では、ただ混乱渦が廻っていた。


「何を…何を知っているの?」


やっとのことで出た言葉は、ごく自然なもので。


彼はまっすぐ私の目を見ながら、低い声で呟く。


「全部」


「え?」


「どうしてお前がいきなり婚約するとか言い出したのかも、誰に言われたのかも、全部知ってる」


「どう、して……」


声が僅かに震えて、彼と距離を置こうと足が勝手に動く。


しかし、腕をがっしりと掴まれて、それは叶わなかった。


結城くんの射抜くような瞳に、圧倒される。


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