キオクノカケラ
「ホントにごめんね?」


頭を下げて謝る彼女に、慌てて両手を顔の前でふる。


「いっいえ、心配かけたみたいですし、ちょっとびっくりしただけですから」


頭を上げて下さい、と付け足して微笑む。


彼女は頭を上げて、私の顔をまじまじと見つめた。


???

不思議に思う私と、章さんの顔を交互に見比べる。

どうしのかな…?

ドアの前の女の子と男の子も私のこと見てる…?


首を傾げて彼女を見つめる。

しばらくすると、彼女は口を開いた。


「詩織ちゃん…だよね?」


「……多分」


「多分?違うの?」


「違うっていうか…分からない…んです」


「「「「え?」」」」


結城くんと章さんを除く四人が、頭の上にはてなを浮かべている。

四人は互いに顔を見合わせると、またこちらを向いた。


「分からないって、どういうこと?」


「えっと……」


答えに困っていると、私と彼女の間にすっと章さんが入ってきた。

そして、笑顔で口を挟む。


「そのままの意味ですよ、恵さん」


みんなの視線が一斉に章さんに移る。


結城くんも何も言わずに、窓に背を預けて腕を組んでいる。


「そのままって?分からないってなに?」


彼女はどこか苛立った様子で、眉をよせる。


それを笑顔で制して私と彼女の距離を遠ざける、章さん。

そして、彼女をしっかりと見つめて、はっきりと告げた。


「彼女は、記憶がないんですよ」


一瞬にして部屋の空気が張りつめた。

誰もが口を閉ざして、私を見つめる。


その視線に耐えきれなくて、私は俯く。

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