初恋タイムスリップ(成海side)
「母さん。
悔しいと思うのは、俺も同じだよ」
母さんは、ハンカチから顔を出した。
「でも、泣いちゃダメだ。
優の前で、泣いちゃダメだ。
母さん」
母さんは、ハンカチをエプロンのポケットにしまった。
「見てごらん。
優は、母さんが泣いていることに気がついているよ。
さっきから、ちらっちらっとこっちを見ている。
こんなに、線路を並べて・・・
優は、元気のない母さんに、笑顔になってほしかったんだと思うよ」
母さんは、リビングいっぱいに広がった線路を見渡した。
「母さん。
優は耳が不自由な分、
勘が鋭いし、人の表情をよく見ている。
だから優の前で、
優の耳のことで切なくなったり、
泣いたりしちゃ…ダメだ。
じゃないと、優は自分の耳は、
母さんを悲しませるものなんだと思ってしまうよ。
母さん。
一緒に頑張ろう」
俺は、そう言って、
リビングのソファーにバッグを置き、
優の隣に座って
一緒に長い線路を走っていくおもちゃの電車を眺めた。