純愛☆フライング―番外編―
毎年、バレンタインデーに贈る相手はたったひとり。志穂が幼稚園のときから、本命チョコを渡し続けたのは巽ただひとりだった。


「今年は手作りなんだからね。味わって食べてね、たっちゃん!」


吉住志穂は同居中の雪村巽が仕事から帰ってくるのを待ち構え、赤いリボンのついたピンクの箱を差し出した。


昨年の春、志穂は巽と同居を始めた。

本当は“同棲”と言いたいところだが……。現状は、親戚のお兄さんちに世話になっている居候、というレベルだろう。

でも、一緒に住んでいることには間違いない。

巽がどんな気持ちであれ、ずっと彼に憧れ続けた志穂にとって、気分はやっぱり“同棲”だ。


ふたりの実家は県の最西端K市にある。

実家が隣同士で年齢差は7歳もあるけど幼なじみだ。

今から5年前、志穂の9歳上の姉と巽の3歳上の兄が結婚した。今年5歳になる姪っ子がいるので、理由は言わずもがなだろう。

そのころから、巽は少しイジワルになった。

本当の親戚になって“妹同然”から“本当の妹”に変わったみたいに。


でもそのおかげで、志穂が高校卒業後、巽の住むO市の専門学校を選んだとき、“同居”の話になったのだから、ラッキーと思うべきなのかもしれない。


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