恋愛の条件
山下と佐野は、明日も早朝からミーティングがあるらしく、お先にとタクシーで帰っていった。

多分真面目な山下は、もう一晩一緒にいたいという己の欲望を理性と配慮で押しよけ、佐野を家まで送り届けるのだろう。

沙希と修一に言わせれば「腰抜け」、だがそんな山下が好きで性がない佐野は、奈央に負けないくらい幸せそうな顔をしていた。

沙希はというと、「バカップルたちに付き合ってられない」とすぐ近くに停まっていたマルセデス・ベンツに向かって歩いて行った。

運転席からチラっと除く片桐の表情はとても柔らかく、かつて鬼の総帥と言われた彼からは想像もつかなかった。


昨夜は、幸せそうな佐野と沙希の姿に、羨んで、妬ましくて、惨めな気持ちでいっぱいだった。

でも今日は、そんな彼女たちを見ると心がポカポカと温まる。

自分が幸せだと他人の幸せも嬉しくなる。

女って何てげんきんなんだ、としみじみ思う奈央だった。

「どうした、奈央?」

ふふふと笑う奈央を修一が優しく覗き込む。

「ううん。幸せだなぁって。私って本当に単純よね?」

「何を今更」

「もう!そこはそんなことないって言って抱きしめてくれるところでしょう!?」

「ハイハイ、お姫様」

上目使いに睨む奈央の額に、修一はキスを落とす。

こんな姿を見られれば、また沙希にバカップルと言われそうだ。

「ねぇ、修」

「ん?」

「私もう焦ってないから。修と一緒にこうしていられるだけで幸せだから」

「奈央……」

「でも、今はいいけど、いつか、ううん、いつかじゃダメね!できれば一年以内?いや、半年以内には、絶対に結婚してね!」

そうにっこりほほ笑む奈央に、修一はキスの雨を降らし蕩けさせた。



その年の6月、奈央は夢に見ていたジューンブライドとガーデンウェディングの両方を叶えることができたのだった。




~END~



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