ショコラティエの恋人
仕事が一段落して遅めの昼食を食べに行くために白衣を脱いでTシャツの上にコートを羽織った。
この近辺は閑静な住宅街でちょっとセレブな街だ。だから住宅街とはいえ割と色々なショップやレストラン、カフェなどが点在しているので食事には困らない。
真冬の寒さで店を一歩出た途端に吐く息が白くなった。肩をすぼめて手を擦り合わせながら店の前の道を歩いていると前から同じく休憩中であろう順が歩いてきた。
「お疲れ。」
「あっ!立花さん、お疲れ様です!」
順が小走りに近付いて来た。手にはコンビニの袋を持っているが中身はパンがいくつか入っているくらい。
「それ、今日の昼飯か?」
「あ、そうっす。節約しなきゃなんで。」
順は恥ずかしそうにそっと袋を自分の後ろに隠したが、俺もまだ新人の頃そういう経験があった。その頃を思い出すと何だか放っておけなくなる。
「これから飯食いに行くんだけど、一緒に行かないか?」
「飯っすか?」
あまり人を誘わない俺にしては珍しく、順も案の定反応に困っているようだ。その様子に苦笑しながら、口下手なりに言葉を紡いでみる。
「最近あんま一人で飯食うこと無いからさ、一人で飯食いにいくの寂しいわけ。今なら奢るぞ?」
少しおどけてそう言うと順は安心したのか、元気良く「はいっ!」と返事をして俺の後についてきた。こういうところがみんなに愛される理由なんだろうな。
俺は最近気に入って良く食べにいく和食屋に入った。お洒落な住宅街にあるので小綺麗ではあるがあまり飾り立てず値段も良心的で旨い和食を出してくれる。和食、というよりは定食という方が正しいだろうか。
俺が和食を選んだのが意外だったのか単純にこの和食屋が珍しいのか、順はきょろきょろと俺や店内を見回している。
「和食、好きじゃなかったか?」
「いえっ、むしろ大好物です!田舎から出てきてからはほとんど和食なんか食べてないので嬉しいっす。」
にこにこした様子から嘘ではなさそうだ。連れてきたのに嫌いな物だったら申し訳ないのでほっと胸を撫で下ろす。