小話帳

心は枯れたはずだった












何年も何年も剣術の修行を重ね、城に奉公し、血に濡れて人を殺める。












それを重ねてきて、己の心はとうの昔に枯れたはずだった。











それが、潤いを取り戻し始めたのはいつからだろう。









まず優しさを望み、笑顔を望み、君を望んだ。












私は、君と共にいたかった。
それを、彼女に裏切られたと知って私の頭は真っ白になった。










気付いたら、彼女の腹には私の刀が刺さっていて、彼女は笑うんだ。










私の大好きな笑顔で。










「*、*?」

「ふふ、君にとって私はただの裏切り者かもしれない。ごめんね、私さ、裏切り者になりきれなかった」

「…え?」

「私は、君が好きだよ。バカみたいに笑う顔も、まっすぐに頑張る姿勢も」

「いや、だ、いやだよ、**」

「裏切り者の私が願うのはおかしいのかもしれない、でもな、願わせてくれ」









私の刀の先で、苦しそうに顔を歪める彼女。でも、もう一度ニコッと笑って言った











「ずっと、その笑顔で笑い続けておくれ」











そう言って笑った彼女は、力尽きたように後ろに倒れた。










何故、私は彼女を抱き締めてやらなかった。何故、何故私は







私、は









「あ、あ、あああああ…ッ!」










刀を投げてすでに散った命を抱き締める。ああ、私はこんなにも君が好きで









そしてまた、潤った心は乾いていく










―心は枯れたはずだった―





(潤わせたのは君だった)











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ばか元気武士。さばさばくのいち

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