小話帳

優しい裏切り者













恋仲が城の情勢を探るための裏切り者だと知って、冷静でいられる奴はいるのだろうか










初めて心から愛した人だった。それが、まるで泡のように夢のように弾けた











彼女が消えた崖まで近づき膝をつく。












私の思いを汲み取って、何も言わず側にいてくれる優しい人だった。









もとめることは、いけないことだったのだろうか。側にいて、と願うことすら罪だったのか











目の前はぼやけ、下を向くと土の上にポツポツとシミができていく。









ああ、泣いているのか









そう理解したとき、己の小さい声が大きく響いた。










ああ、私泣きわめいている










泣けない私を、表情の乏しい私の表情を引き出してくれる優しい人。









君がいなきゃ、明日からの泣き方も笑い方もわからない














―優しい裏切り者―









(感情という、もっとも厄介な優しさを残して逝くなんて)











―――――――――――――――


何も語らぬ寡黙で優しい武士。

それを支える年下の、意見をハキハキと言える彼女




唯一恋仲になる二人
< 16 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop