はらり、ひとひら。


え?


がくりと地面に倒れ込んだ。身体が針金で縛られたみたいに動けない。


鈴の音がして、どこからともなくそれはやって来た。見上げるとそこには、愉悦に歪む闇色の眼。


「藍玉(らんぎょく)。だってあなた、執拗に式神を拷問かけて遊んでたものね?」


「ッお前…!」


「だって、話が違うでしょう? 公(きみ)はそこまでやれ、なんて言ってたかしら」


怒りで肩が震えそうなのに、今すぐこいつを引き裂いてやりたいのに、指一本動かせない。

─なんて屈辱。


「っ放せ、やめろ。その名前で、私を呼ぶな」

「あらどうして? 綺麗な名前よとても」

「私は澪だ!!」


私は、私は偉大なる母様の式神で…あの頃の落ちこぼれ人魚じゃない。

一族から貶され嗤われた日々はもうどこにもない。

名も一族も全部捨てて、殺して、もう残されたものは【澪】という名前と母様の愛だけ─



「ばかね。公は最初からあなたのことなんて、愛してないのに」



─そんなわけ、



「愛を欲しがって欲しがって…嘘でいいから愛してほしくて………そんなに心に開いた風穴、埋めて欲しかった?」




ちがう。違う、そんなんじゃ─



「後悔してるんでしょう。一族を、自らの手で滅ぼしたこと。あなたの心はもうぐちゃぐちゃ。そこから狂い始めたのよ」


やめろ。

やめてくれ。


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