はらり、ひとひら。


真澄くんの式神は、多くいると聞いたけど…一度だけ見たことがある。

大きな翼を持った女性の妖。あれが、側近なのだろうか。


「ただの疲れで倒れたならまだ良いですが。どうもそんな雰囲気ではないのです」

「真澄くんは部屋に?」

「えぇ。でも近寄ってはなりません。祟りを受けでもしたらおおごとです」


祟り? 近寄れない?


「部屋を封鎖し結界をしてあります。妖は近寄れませんが人はもっと近寄れない。何かに障られ、意識が戻った時に暴れられては手の打ちようがない」

「…そんな! 閉じ込めるみたいな真似…!」

「では貴方が真澄の部屋に行き直接呼びますか? 何が目覚めるかわかりませんよ」

「…!」

婆様の目は氷のように冷たかった。あまりの気迫に押し負け、口をつぐんだ。


「ひどく魘されていました。あとは本人の気力と体力の勝負…信じて待ちましょう」

「………はい」


腑に落ちない点はいくつかあったけれど、婆様の意向には従うのが鉄の掟。

宝生は神崎に逆らえない。宝生だけじゃない、他の分家もだ。本家神崎を尊重するという暗黙のルールがある。


「真澄くん…」


みんな、ナーバスになっている。でも無理はない。私だって不安でたまらないのだ。

あの未来予知の書き物…先見書(せんけんのしょ)を見てしまってからは─。


遠くない未来、きっと恐ろしいことが起きるのではないか。信じがたい不確かな、けれど約束された未来。


その時あなたがいなければ、私たちはどうにもできない。


どうかきっと、帰ってきて、と手を組み切に願った。








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