はらり、ひとひら。


「あんたまで失ったらどうしよう、って」

きっと、今私とお母さんの頭の中に浮かんでいる人は同じ人なんだと思う。


途端に母の思いが胸を占め、とめどなく涙が溢れた。


「ごめん、ごめんね…お母さん」


愚図る子どものように首を振って、お母さんに縋りついた。

お母さんはそんな私をしっかりと抱きしめ、小さい子をあやすように背中を軽くたたく。



…それからは大変だった。

二人してお互いつられながら大泣きして、異変に気付いた海斗がタオルを持って私たちに寄越して…


お母さんが海斗まで巻き込んで三人で抱き合いながらまた泣いた。海斗は最初こそ「やめろ」だの「放せ」だの喚いていたけど、昔と変わらず泣き虫な彼はすぐにもらい泣き。


玄関で家族全員で抱き合いながら号泣する異様な光景を見ていた一匹の狐は、三人のすぐ傍、困ったように笑う、少しだけ頼りないけど笑顔の優しい大黒柱の面影を見たが─

このことは内緒にしておこう、と笑ってその場を離れた。








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