[完]大人の恋の始め方





そこまで怒鳴って、口を押さえた。



あたし、何言ってんの!?



年上の、社長様と、部屋を貸して貰ってるひとに対して。



一気に冷や汗をかく身体。



「へー。意外と言うねぇ」



楽さんの声に、あたしは身を固くして、目をギュッとつぶった。



「何、固くなってんの?別に怒ってないよ?」



だけど、意外にも言葉は優しかった。



絶対怒ると思ったのに、なんで?



分からないといった表情を見せれば、楽さんはクスリと笑った。



「ごめんね?確かに、杏里ちゃんの前で奈緒の名前を出すんじゃなかったね」



それだけ言うと、再びキラキラフェイスに変わる。



どうやら、母がランチを持ってきたようだ。



だけど、あたしは食べる気にはなれなかった。



一言も発さない優斗さんのオーラが、あたしを包み込んでいる。



なんで?
確かに、言葉は 悪かったし、余計な事も言っちゃった。



でも、なんで何も言わないの?



何も語らないその顔が、なんだかいつまでの頭に残った。



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