美味しい時間

『百花? どうかしたの?』

「お……かあ……さん。私、そっちに……帰って……いい?」

途切れ途切れになってしまう私の言葉を、黙って聞いてくれている母が、
そっと囁いた。

『いつでも帰っておいで』

止めどなく涙が流れてくる。
出来れば今すぐにでも帰りたいくらいだった。

『お父さんには、お母さんから話しておくから。百花は会社の方を、ちゃんと
 してきなさいよ』

「ねぇ……。私が……帰りたい理由……聞かないの?」

『聞きたくないわけじゃないけど、何となく分かるから』

分かるんだ……。
それ以上は何も言わないでいると、母が笑い出した。

『百花は変わってないね』

「何が?」

『さあね』

わけが分からない……。
でも母のお陰で、胸の痛みも涙も落ち着いてきていた。

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