美味しい時間
「うわぁっ」

課長との距離の近さに、笑った顔のまま驚く。

「何笑ってるの?」

「うん? 幸せだなぁと思って」

「じゃあ、もっと幸せにしてやる」

そう言葉を放つと目の奥が光り、妖しく微笑んだ。

「い、今でも十分幸せなんだけど……」

この状況はマズい。身体が自然とピンチを察知して、課長から距離をとろうとし
た。しかし長い腕にすぐ追いつかれてしまう。手がもそもそと動き出し、身体中
を弄り始めた。
えっ! えぇっ!! えぇぇぇーっ!!!
これってやっぱり、もう一回……ってこと?
無理っ! 無理でしょーっ!!!
そう頭の中で思っていても身体は受け入れようとしているのか、課長の手の動き
に合わせ、ピクンピクンと反応してしまう。

「身体は正直だな。もっと幸せにしてほしいみたいだぞ」

言葉と顔は意地悪なのに、私の頬に当てた手は、壊れ物に触るかのように優しさ
を含んでいた。

「二人で幸せになろうな」

さっきまでとは正反対の穏やかな笑みを湛えると、胸元に顔を埋めた。
今、そんな言葉を言うなんて、ズルい……。
その一言で、頭のてっぺんから足の爪先までとろけてしまった。

その後、幾度と無く高みに連れて行かれ、甘い嬌声を上げ続けたのは、言うまで
もなくて……。

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