その両手の有意義な使い方
高遠のこめかみは、浅くこすれて血が滲んでいた。

文佳を庇った右腕は、Tシャツからはみ出た二の腕から肘まで、派手に皮膚が捲れて血が流れている。

「高遠! ちょっと…ねえ!」

どこをどうして好いのかわからずに、文佳はただ、高遠の名前を呼んだ。

「起きてってば、高遠!」

「…フミさん?」

もどかしいほどゆっくりと、高遠が薄目をあける。

視線がゆらゆらと彷徨ってから、ぼんやりと、文佳に焦点を合わせた。

「フミさん、元気だ…好かった」

こんなときなのに、にっこりと高遠は笑う。

「バッカじゃないの!」

思わず殴りたくなって、代わりに文佳は握り込んだ拳で自分の両目を拭う。

「別にバカでも好いや。夢がひとつ、叶っちゃったから」

「なによ、それ」

ぐいぐいと頬まで拳で擦り、文佳が呟く。

「俺はね、ずっとフミさんを護りたかったんだ」

そう云って顔を少し顰めながら、高遠は笑った。
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