遠い窓
▽第一章

第一節

「もしもし。」

「悠?!ちょっとあんた、今どこにいるのよ!今日は石田さんと会うって言ってあったでしょ?!」

きんきんと頭に響く声で、母さんはそう言った。

「……行かないよ、僕、反対だって言ったでしょ。」

電話口で短いため息が聞こえた。

「反対だとか賛成だとか、どうでもいいの。良いから早く来なさい。」

電話は一方的に切られた。
母さんはいつもそうだった。
僕はシワのよった制服に着替えて、指定された待ち合わせ場所に向かうことにした。





「お母さんね、再婚しようかと思うの。」

二週間前、食卓を囲みながら母さんはそう言った。

「職場の偉い方でね、石田さんって言うんだけど……。」

石田、か、知らん。
母さんの話によく出てきてたのは、サイトウって言う駐車場のオッサンと、卸業者のムカイってやつくらいだ。

「石田さんが、今度悠も交えてご飯でも行かないかって誘ってくれたの。」

「行かないよ、僕。二人で行きなよ。」

肉じゃがが喉を下らなかった。
母さんの顔が見れなかった。

「……ごちそうさまでした。」

その場の空気耐えかねた僕は、荒々しく箸を置いて食卓を離れた。

再婚、だってさ。
母さんと父さんが別れたのは三年前くらいだ。
それから今まで、母さんはその石田さんとか言う人と恋愛してたのか。
なんか、呆気ないな。
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