鈴屋のひとひら

きれいな日










 青年は、冷たくなった彼女をそっと抱き上げました。


青年の目からは、涙がぽろぽろとこぼれていました。




「ああ、ぼくはお前が好きなのだな。
ぼくはどうしようもなく、お前が好きなのだな……」



青年は小さな猫を抱きしめて、何度も泣きました。



「お前はずっと、ぼくを愛してくれていたのだな。

春には桜の花びらを、夏には貝殻を、秋には枯れ葉を。

毎日毎日、一枚ずつ届けてくれたのだな。


ねえ。

ぼくの鼻は香りを感じるよ。
ぼくの耳は音を聞く。
ぼくの口は歌をうたったんだ。

そしてほら、
ぼくの目はお前を見ている。


ぼくがもっと早くに気づいていたら、ぼくはお前と一緒に花の香りを楽しんだり、波の音を聞いたり、歌をうたったりできたんだね。


だのに、お前が何も見えなくなってから、やっとぼくは気づいたんだ。



ああ、ぼくはお前が好きなんだ……」
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