。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
あたしは両手を叔父貴に握られたまま。叔父貴はあたしの腕を掴んだまま。
あたしは一方的に叔父貴を睨み上げ、叔父貴はひたすらに焦燥の表情を浮かべてあたしを見下ろしていた。
そのときだった。
誰かが―――あたしと叔父貴以外の第三者が、叔父貴の手首に伸びてきて、叔父貴の手首を掴んだ。
正直驚いた。
ここにはあたしたち以外誰も居ないと思っていたから。実際、気配なんかもしなかったし。
「そこまでです。落ち着きなさい、お二人とも」
しっとりと落ち着き払ったその声は、聞き覚えのある声で――――捲くりあがった御簾の向こう側から照らし出された月明かりの下、
あたしたちの元に身を屈めていたのは、
Dr.鴇田だった―――
細身の体にトレードマークの白衣を纏い、いかにもインテリ風情なメガネ。
「鴇田……」
最初に口を開いたのは、叔父貴だった。
ドクターの登場に一番ほっとしていたのはあたしじゃなく叔父貴だったのかも。
焦るような、怒るような、悲しいような複雑な表情から一転、その顔が安堵に緩む。
「お嬢さんからその手を放して」
ドクターは、診察のときと変わらない穏やかな口調で叔父貴を見ると、叔父貴は無言で頷き、ゆっくりとあたしから手を放す。
医者だからか、それともこの場に居た唯一冷静な人物なのか。
その声は穏やかで、従わずには居られない。
ようやく開放されたあたしは、それでも暴れださないように今度はドクターに手を握られた。
ドクターの手は叔父貴の手よりあったかくて、それに少しだけ驚いたが、
その体温があたしには心地良い。
熱くなった脳の片隅まで、まるで包み込むような温もりに溢れていて、あたしもそれ以上は抵抗することをしなかった。
急に力が抜けて、だらりと腕を降ろすと、ようやくドクターの方も安全だと踏んだのか、あたしの手から自分の手を放す。
ぬくもりが遠ざかって、あたしは改めてドクターを見上げた。