。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



「口の中が何か気持ちわるかったんだよね」


戒はそう言いながら歯ブラシを手に取る。


きれいな洗面所は大きな鏡が備え付けてあって、その前にドライヤーやクシ、一通りの使いきりスキンケアセットなんかが置いてあった。


二組の歯ブラシセットとコップも置いてある。


“二組”ってとこが恥ずかし、いかにもお泊りカップルって感じがリアルだ。


その一つの歯ブラシセットを手に取り戒がチューブで歯磨き粉を乗せる。


何でこのタイミングで歯磨き??って思ったけど、何か気が紛れる。


磨いている間に次どうすればいいのか考えることもできるし。


だけど


しゃこしゃこしゃこしゃこしゃこしゃこ


二人して無言で鏡に向って歯磨き…


何だよ、この変な図ぁ!!


ぜんっぜん色っぽくねぇ!!


あたしたちこれからエッチしようとしてるんだぜ?


なのに何でこんなにリラックスして歯磨きなんてしてるんだよ!


それとも、もう寝るつもりなのかな。歯磨きって普通寝る前にするもんだし。


やっぱり戒にはその気がないのかな。



でも


鏡に映った戒をちらりと見ると、真剣そのもので、何を考えているのか長い睫を伏し目がちにしていて、


ついでに言うと邪魔になった髪をヘアバンドで止めていて、額からほんの一房前髪が零れ落ちているのを見て…


ドキン…と心臓が大きく跳ねた。


腕まくりをしたシャツから見える血管が走ったあの引き締まった腕に抱きしめられたい。


長い睫が縁取るあの大きな琥珀色の目で見つめられたい。


いつも爽やかな香りがする口でキスされたい。




戒と




一つになりたい





歯磨きの間に思って、あたしは勢いとかじゃなくて本気でこいつとそうゆうふうになりたいと再確認できた。





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