。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。
「おやすみ、響ちゃん。安らかに~」
手を合わせて俺は立ち上がった。
ってか聞きたいこと聞いたし、言いたいこと言ったからもう用はない。
「じゃぁな」と部屋を出て行こうとして、俺は脚を止めた。
ん゛??
テーブルの上に乗せられた小さな金魚蜂。
その硝子の金魚蜂の中に見覚えのある金魚が一匹、ひらひらと泳いでいた。
バッ!俺は金魚蜂を両手で掴んで中身を凝視。
く、クミ!!クミじゃねぇか!!
「おいっ!響輔っ!!」
俺は心地良さそうに寝息を立てていた響輔の横っ腹を思い切り蹴り上げた。
「いっ!!」
響輔がわき腹を押さえてうめき声を上げる。
「な、なん…?」寝起きなのか、状況が把握できてないのか、さっきまで眠そうに細めていた目をいっぱいに広げている。
「お前っ!俺の愛人を誘拐したな!!いつの間に!」
俺の指摘に響輔は視線を泳がせた。
「ゆ……誘拐…?何のことやら」
「てめぇ!とぼけても無駄や!見間違いじゃねぇ!!
これは俺の愛人やっ!金魚が欲しけりゃ自分で買うてこればええやろ!」
「その子が可愛ええんです」とぷいと顔を背ける響輔。
てめぇ…堂々と認めやがって!
てかクミ…ここに来てちょっと元気になってね?前はちょっとぐったり気味だったのに。
思えば昔からそうだ。俺が大阪で可愛がってた現地妻…ネコの“みぃ”も響輔が遊びに来るとこいつにべったりだった。
あんなに毎日愛情を注いで可愛がってたのに!!俺より響輔に懐きやがって!!
現地妻の気持ちはさらわれても、愛人の気持ちまでさらわれてたまるかっての!
(今でもトキドキ本妻の気持ちをさらわれそうになってるからな)
「クミは返してもうらぞ!」
俺が喚くと、寝不足とイチの攻撃がダブルで利いた不機嫌響輔が不機嫌にさらに拍車を掛けて手の関節を鳴らした。
「奪えるもんなら」
―――
「離せっ!ごらぁ゛!」
「うっさい!ボケ!!」
例の如く掴み合いの喧嘩にまで発展した俺は響輔の前髪を掴んだまま、こいつに馬乗りになっていた。
響輔も響輔で、俺のシャツの襟元を掴んでいてボタンが千切れかかっている。
「うるせぇ!!キョウスケっ!!何を騒いでる……」
と本日休みだったタクさんは、昼寝でもしてたんだろうか。これまた不機嫌そうに襖を勢い良く開けて、俺たちを見るとピタっとその動きを止めた。
「……あ、いや…取り込み中…悪かったな…」
それだけ言うとススっと後ずさってパタンと襖を閉める。その後逃げるようにバタバタ駆けて行く足音が聞こえて、
「「………」」
俺たちは顔を見合わせた。
廊下の奥の方で叫び声のような噂話をする声が聞こえる。
「何ぃ!?キョウスケが浮気してメガネの野郎に問い詰められてた!!」
「痴話喧嘩??」
俺は無言で響輔から手を離して響輔の上から退くと、響輔も俺の襟元から手を離した。
こうやって組の人間たちに誤解されていくんだよな…
ま、朔羅とのことを隠してるからちょうどいいっちゃいいけど、
やっぱ、良くな~~~~い!!!