。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



ドクターは白衣こそ着ていなかったが、ワイシャツにネクタイと言う姿で髪型も仕事仕様だった。


「な、何であんたが!」


ズサッ


思わず後ずさって厨房のカウンターに手をついた。


俺こいつ苦手…ってか嫌い…


以前、御園医院に忍び込んだとき、こいつのわけ分からんペースでやりこめられたからな。


力技が通じないし、かと言って頭脳で勝負しても常識が通じないし。つまり何をやってもダメ。


なんて言ったって、わけわからん変人だからな。


ペースが狂う。


「ちょっと時間が空いたから、来てみたんですよ。フフッ


今日はお嬢さんは?若い夫婦は共働きで大変ですね」


興味深そうにドクターは店内をきょろきょろ。


「朔羅はいねぇよ」無愛想に答えると、ドクターはそれ以上聞いてこず、


「そうですか、残念です。ではラテを二つ♪お持ち帰りで」


と言って注文してきた。


「二つ?」


あんた二つも飲むんかよ、と突っ込みそうになったが、


それよりも早くに、


「人を待たせてあるんですよ」


とドクターは店外の方を目配せした。


茶色い枠のガラスの扉の向こう側に、







―――大本命の彩芽さんが立っていた。






今日は和服ではなく、スーツ姿だ。同じスーツでもキリさんとは違った雰囲気。彩芽さんは俺に気付くと、扉の向こう側で僅かに手を振ってきた。


「…あ、あのさ!」


俺は彩芽さんのことを聞こうと勢い込むと、


すっ


いきなりドクターの腕が伸びてきて、俺の頬に触れた。




「顔色、悪いですね。唇も、荒れてる」




頬からゆっくりと指が滑ってきて、俺の唇をそっとなぞる。


細くて、冷たい―――指先だった。





「また胃をやられました?


よければ私が診てさしあげますよ♪フフッ」






ドクターが意味深に微笑んで、またも俺は思わず後ずさり。


「いや、遠慮シマス」




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