。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅲ・*・。。*・。



「響輔なら居ねぇよ」


俺は警戒するように顎を引いて、イチを睨んだ。


イチは全然堪えていない様子で薄く笑うと、俺の顔に手を伸ばしてきた。


「顔、どうしたの?可愛い顔が台無しよ?


喧嘩でもした?ヤンチャな坊やね」


低い声でくすくす笑われて、俺はイチを睨んだままちょっと乱暴に顔を避けた。


「そんな怖い顔しないでよ。今日は響輔じゃなくてあんたに用があったの。ね、バイトいつ終わるの?」


イチはカウンターに身を乗り出してにこにこ聞いてくる。


ぱっと見、目を見張るような美人だが、こいつの色っぽい笑顔の裏には―――計り知れない悪意が隠されていそうだ。


「何の用だよ。今度は何を企んでやがる」


俺も肘をついて身を乗り出すと、今度はイチの方が警戒したように体を後退させた。


「俺は響輔のように甘くはねぇからな、女と言え容赦しねぇぞ?」


低い声で忠告してやると、イチが一瞬だけ表情を歪めた。


でもすぐにいつもの笑顔を貼り付けると、


「怖いわね。別に攻撃しようとしてるわけじゃないわよ。


話がしたいだけ。ここじゃなんだからバイト終わったら車の中ででも話さない?」


何だよ、ここじゃだめって。


と眉を吊り上げたが、イチがぶら下げた車のキーを見て俺は目を剥いた。


「フェラーリ!?あんたフェラーリ乗ってんのかよ」


俺がまさかそこに食いつくとは思ってなかったのだろう。イチの方も驚いたようにたじろいで、


「え、ええ。響輔から聞いてない?」と目をぱちぱち。


そいやぁ、カーチェイスをしたとか言ってたような言ってなかったような…


「だけどほんまに乗ってたやなんて」


しげしげとそのキーを眺めていると、


「男って好きよね、車。あんたが世間一般的な反応見せてくれて嬉しいわ」


とイチがはにかんだように笑った。


「世間一般的じゃない男ってのは響輔のことだろ?あいつ車にはあんまり興味がないから」


「そうなのよ。走れればいいとかほざいてた」


「そうゆうヤツだ?」


しかし、ほんまもんのフェラーリを目の前にして、あいつもスルーするとか…


響輔とは長い付き合いだけど、未だに謎。






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