君へ、約束の歌を。<実話元>
逸らさなきゃって思ったのに、
その痛々しさに瞳は捕われたままだった。



「…あ。……これ?」



千代が、右手で左手首をそっと撫でる。



「私、やっちゃったことあるんだ…」




――…リストカット



千代が続きを言葉にしなくてもわかった。



その傷は、

その単語は、

あまりに生々しくて。



千代は2年の終わり頃に彼氏と別れて落ち込んでたし…


…祐ちゃんの関係のことが原因なのかは、
わからない。



もしそうでも。

そうじゃなくても。


たくさんの場所に傷跡が残ってるのは、
事実。


傷跡を抱えてる人は、私だけじゃない。





  大きさも痛みも、

  それぞれ違うけど。



  たとえ目に見えなくても

  たとえ
  血が滲んでるものじゃなくても


  人は、


  誰でも傷跡を持ってるんだ…



そう、改めて思った。





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