ひとまわり、それ以上の恋
 肩の力が抜けて他愛もない話をして盛り上がっている内に、どんどん時間は過ぎた。

 こんなにお酒を飲んだのは久しぶり。ぐるぐる目が回りそうなぐらい。気持ち悪さはないけれど、妙にハイテンションのあとには強烈な睡魔がやってきて、何も考えられなくなっていた。

 深夜はとっくに過ぎていたことだろう。タクシーに乗せられて送ってもらっている間、私は深い眠りに落ちる間際にいた。やっとのことで支えられてタクシーから降りたような気がする。

 ふわふわ宙に浮いているような感じで、視点が定まらない。玄関のドアが開いて、ぼんやりと見えたのは兄だろう。声が聞こえてくる。二人の男性の声が入り混じる。沢木さんとなんだか言い争っているみたいだ。

 ……誤解しないで、お兄ちゃん。意識の外で、私は喋っているのに、声が出ていかない。

「――落ちつけって。泣かせてるのは別の男だ」

 沢木さんがそう言ったところで、私の記憶は飛んでいた。





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