ひとまわり、それ以上の恋
「ひとまず、このまま君を抱っこするわけにもいかなそうだし、あとでね」

 クスと笑って、彼は待っていて……と部屋の奥に消えた。

 完全に私は、迷子の子猫ちゃん状態。

 私がひとりであたふたしてて、市谷さんは大人の余裕ってヤツ? なんだか悔しい。
 
 抱っこする……なんてとんでもないっ!
 今の甘ったるい誘惑めいた瞳は、私の気のせいに違いないっ!

 なんとなく美羽さんが、気をつけて……って言ったのが、分かる気がする。
 ちゃんと、私のやるべきことに集中しないと。

 ベッドからそそくさとおりて身なりを整えた私は、リビングの方へ戻った。

 広くてお洒落な部屋の中は、キレイに整えられているけれど、あまり生活感がない。キッチンもそれほど使っているようには見えない。

 さっき市ヶ谷さんが歩いていった方にはバスルームがあるとして、そのほかにも部屋がいくつかあるみたい。

 私はふうと一息ついてリビングを再び見渡した。

 チョコレート色のソファは見るからに高級そうで勝手に座るのは躊躇われたけれど、ぼーっと突っ立っているのも、なんだか変だ。

 でもやっぱりお客さんとして来たわけじゃないし、どうしていればいいんだろう。



< 26 / 139 >

この作品をシェア

pagetop