ひとまわり、それ以上の恋
「ちゃんと教えてください」
「……ちゃんとって」
「今、さっきみたいなポーズをしたら、感じてくれますか?」

 ダメダメ、止まれ、自分。セーブをかけようと思っていたのに、どんどん止められなくなっていく。

 市ヶ谷さんの腕に必死になってしがみつくと、彼は本当に困惑していて、私を押し返すつもりだったその手が空回りする。

「ちょっと待った……」

 彼が動こうとした拍子に体勢を崩して、私は市谷さんの上に乗っかってしまっていた。

 しかも大胆にも私の寄せたブラは市ヶ谷さんの顔にむにっと押し潰されていて――顔面蒼白。次には真っ赤に熟したトマトのように私の頬は赤く染めあがっていたことだろう。

「きゃっ……ご、ごめんなさい」

 慌ててどけようとしても彼の上に乗ってしまったからにはどこに手をついていいのかも分からずうまく体勢を整え直すことができなくてパニックだ。

 その間にも運悪く嵯峨野さんが戻ってきてしまい、私と市ヶ谷さんの光景を見て声を失い、立ち竦んでしまっていた。当然だ、こんなところ見せつけられたら。

「嵯峨野さん、誤解しないでね。アクシデントだから」
「ご、ごめんなさい……」

 バカバカバカッ。発情した猫か、私は。なんでやることなすこと、間が悪いんだろう。

 こんなつもりじゃなかったのに……。


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