蒼穹の誘惑
「浅野は思った以上にあなたに本気のようですね。ああいうタイプは気をつけた方がいい」

「あなたがそんな心配をするの?彼をたきつけたのはあなたでしょう?」

みずきの瞳が困惑に揺れる。

それを求めていたのは、高宮の筈だ。

先週の酷い仕打ちを忘れたというのだろうか……

「-----それもそうですね」

高宮はそう低く零し、みずきからそっと離れる。

「お願いします。大人しくしていてください」

「それは秘書として?それとも……」

その先は言わせて貰えなかった。

離れたはずの高宮の唇がそれを塞いだから-----

唇と唇が軽く触れるだけのキスだった。

だが、それはみずきを黙らせるのに十分で、みずきは瞠目しながらその口づけを受け入れる。

優しく重ねられた唇からは、どこか慈愛が籠ったような、そんな錯覚に陥らせるような温かさが伝わった。

高宮は、唇を離すと、そのまま何も言葉を発さず、茫然とするみずきをその場に残し、静かにドアを閉めて出ていった。



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