蒼穹の誘惑
今一体自分に何が起こっているのだろうか。

みずきの腹部を殴り気絶させたのは、浅野の運転手に間違いない。

そのまま浅野のBMWに乗せられたことは朧気ではあるが、覚えている。

浅野は、一体どこに―――

一度意識を取り戻したときも、一瞬ではあったが、浅野はいなかったように思える。

今もこの部屋にはみずき一人だ。


(まさか、浅野君がこんなことを……?)


みずきの頭の中にひとつの疑念が生じる。

酔ったふりをして、運転手にみずきをここまで運ばせた―――

いや、浅野がこんなことをしても何のメリットもない、とその可能性を一蹴する。

浅野が、みずきを諦めきれず、ストーカー紛いの誘拐を実行したのかと思われたが、昨夜の浅野の様子から、そんな切羽詰まった風には感じられなかった。

自慢にはならないが、みずきは今まで何度かストーカー被害に遭ったことがある。みずきに振られた男が諦めきれず、ストーカーと化すのは珍しいことではなかった。ひどいときには、拘束され、二日間監禁されたこともあった。



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