誰を信じる?(ショートショート)
「そんな急に……」
「いいか? とりあえず話してみろ。助手の話を」
「……離婚なんかできないよ……。そんな、そんなだって……私が知らないあの人がいたなんて、そんな考えられない」
「お前が知らないだけ。運悪く利用されたんだよ」
「……」
そんな、どうしても信じられないし、信じたくもない。
「離婚が一番いい。多分お前が離婚しようって言っても、相手はとめないよ」
「…………」
伸の自信に腹が立つが、今は言い返せる材料もない。
「家出たくなったらそのまま出ればいいから。とりあえず俺んち来い。な? 部屋開いてるし、服も買えばいい」
「……待ってよ……」
「とろとろしてると、お前一人損するぞ」
「損って、結婚って損得じゃないじゃん! 好きか嫌いかが重要だよ……」
「それをそのまま相手に言えば?」
「……とりあえず帰る」
「迷ったら家出た方がいい。俺はお前の味方だから、ちゃんとサポートするよ」
「……」
伸の絶大な応援を胸に家に帰る……。全く心は躍らない。
「ただいま……」
玄関の扉を開けても、もちろん誰もいない。伸が本当にここへ来たのかどうかは全く分からなかった。灰皿も出てなければ、コップも出ていない。
それでも、そのまま桜木の自室のドアをノックした。返事はない。
靴があるのでいることは確かだと信じ、そのままドアを開けた。
「……」
久しぶりに見る、桜木の部屋。部屋の中は前回と変わらす、デスクの周りに限らず、部屋全体が本や書類で覆われている。その真ん中で、彼はパソコンに向かって何か作業をしていた。
「……あの……、伸ちゃんがここに来たって聞いたんだけど」
「来たよ」
まさかの事実に綾乃は驚きを隠せなかった。
「あ、そ、そう……」
「今野君がどうとか言って帰った」
「だ、誰それ?」
助手の名前だろうかと、予測が走る。
「僕の研究室の助手」
「あそう……」
桜木はこちらを見ようともしない。
「嘘ばっかり言うの。あり得ないのにね、先生が不倫なんか……」
縋る気持ちで言った。桜木は絶対にそんな人ではない。
だが、桜木は簡単に言ってのけた。
「どっちが事実でも、離婚しないのなら同じだよ。綾乃はしないだろ、当然」
出会って初めて名前を呼ばれて、顔を上げた。
桜木はこちらを見つめている。そのメガネの奥は、見たこともないような異質な視線をしていた。
この人は浮気をしているのかもしれない、本当は女性に慣れていて、面倒くさくて今まで私をあしらっていたのかもしれない。初めてそんな気がした。
「離婚する?」
「いいか? とりあえず話してみろ。助手の話を」
「……離婚なんかできないよ……。そんな、そんなだって……私が知らないあの人がいたなんて、そんな考えられない」
「お前が知らないだけ。運悪く利用されたんだよ」
「……」
そんな、どうしても信じられないし、信じたくもない。
「離婚が一番いい。多分お前が離婚しようって言っても、相手はとめないよ」
「…………」
伸の自信に腹が立つが、今は言い返せる材料もない。
「家出たくなったらそのまま出ればいいから。とりあえず俺んち来い。な? 部屋開いてるし、服も買えばいい」
「……待ってよ……」
「とろとろしてると、お前一人損するぞ」
「損って、結婚って損得じゃないじゃん! 好きか嫌いかが重要だよ……」
「それをそのまま相手に言えば?」
「……とりあえず帰る」
「迷ったら家出た方がいい。俺はお前の味方だから、ちゃんとサポートするよ」
「……」
伸の絶大な応援を胸に家に帰る……。全く心は躍らない。
「ただいま……」
玄関の扉を開けても、もちろん誰もいない。伸が本当にここへ来たのかどうかは全く分からなかった。灰皿も出てなければ、コップも出ていない。
それでも、そのまま桜木の自室のドアをノックした。返事はない。
靴があるのでいることは確かだと信じ、そのままドアを開けた。
「……」
久しぶりに見る、桜木の部屋。部屋の中は前回と変わらす、デスクの周りに限らず、部屋全体が本や書類で覆われている。その真ん中で、彼はパソコンに向かって何か作業をしていた。
「……あの……、伸ちゃんがここに来たって聞いたんだけど」
「来たよ」
まさかの事実に綾乃は驚きを隠せなかった。
「あ、そ、そう……」
「今野君がどうとか言って帰った」
「だ、誰それ?」
助手の名前だろうかと、予測が走る。
「僕の研究室の助手」
「あそう……」
桜木はこちらを見ようともしない。
「嘘ばっかり言うの。あり得ないのにね、先生が不倫なんか……」
縋る気持ちで言った。桜木は絶対にそんな人ではない。
だが、桜木は簡単に言ってのけた。
「どっちが事実でも、離婚しないのなら同じだよ。綾乃はしないだろ、当然」
出会って初めて名前を呼ばれて、顔を上げた。
桜木はこちらを見つめている。そのメガネの奥は、見たこともないような異質な視線をしていた。
この人は浮気をしているのかもしれない、本当は女性に慣れていて、面倒くさくて今まで私をあしらっていたのかもしれない。初めてそんな気がした。
「離婚する?」
