月とバイオリン
 カノン――。


 地に足を着け、立っていた。


瞳を開くと、ピーターが横に来ていた。

土を踏む音は聞いていたと、今思う。

同時に二箇所に存在していたのだと、飛ばした考えも。


「あぁ、聞こえるね」

「ずっとカノンね?」

「あぁ。そうだね」

 どきどきと、鼓動を急ぐ心臓。

こんなことは初めて。飛び立った空想を邪魔されるなんて、生まれて今まで一度もなかった。

震える右の手を、逆の手で胸に押さえ込む。

体が熱く、ざわついていた。

「何を追いかけているのかしら」

 ブナの木から掘り出された椅子に手探りで座り込み、シェリーはピーターを見上げた。

手に持ったランプの光を受けて、影を背負った顔になってしまっている。
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