月とバイオリン
 あぁ、ジャック。


 写真の中の彼を振り仰ぎ、同じ年くらいの少年の笑顔に、救いを探す思いだった。

すがれるものなら過去の光に、優しい思い出は癒しとならないのだろうか。

ジャックを欠いたこの世は、何も持ってはいないのか。何も。

生きていることだけで、裏切っているような思いに囚われている。

袋小路。

ジャックが死んでしまったことがいけない。彼はこの人を残して逝くべきではなかった。

そんなことこそ、どうにもできることではないとわかるけれど。


 誰かが死なねばならないのなら、代われるものであれば、なぜあの人が、まだ若いのに。

死に順番などはないし、選び取れるものではない。

逃げ場でないとは思わないけれど、誰もそこからの未来を知ることはない。

神の摂理だ。

神の存在を、死はわかりやすく教えている。


 では生きることは?

 彼の問いかけ、つぶやくような吐き捨てたような『なんのために』。
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