月とバイオリン
ありがとうと、目を開けてくれたら真っ先に言おう。

それから、危険なことはしないように、それも言わなくてはならない。

こんな夜に屋敷を脱け出し、闇の街をここまで歩き、そのうえこの建物を登りきるなんて、リースの大胆にして不敵な行動を思えば恐ろしくなりそう。

なんて無茶をするのかしら。
そして、天窓から落ちるなんて……。


 なりそうどころではなく、恐ろしかった。

彼の言うとおり、距離を言えばほんの十フィートくらい。

けれどもし床に叩きつけられていたなら? 暖炉にぶつかっていたら。

このあたたかさは、消えてしまうこともある。

そうなっていたかもしれない、たった今。



「あなたが生きていてくれて良かったわ」
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